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声のした方に目をやると、店員であろう女性が口元を押さえて上品な笑いを漏らしていた。
「お前が馬鹿なこと言ってるから笑われてるぞ」
「秀一のためならボクはいくらでも馬鹿になる」
明らかに自己利益狙いのくせに何をぬかすか。そういうのをおためごかしと言うんだよ。
美花はお目当てのペンダントを手に取った。
「とりあえず、これは買う。ボク達の愛の証」
「お前が何を言いたいのかさっぱり解らん」
左手を俺の目の前に差し出す美花。
「この薬指に指輪をはめてくれるまでは、これで我慢する」
長い付き合いの俺でないと解らないような僅かな微笑みをたたえた。
お前なぁ……。
「あらあら」
背後から声。
「彼がプロポーズするのは、もう決まっているのねぇ」
先程の店員の女性であった。
二十歳くらいだろうか。控えめな化粧の施された端正な顔立ち、枝毛の見当たらない艶やかな長い黒髪。全身に気品を纏い、優雅に佇むその女性は、国が傾くのではないかと思うほどのまごうことなき絶世の美女であった。
「こんにちは、夏乃さん」
この挨拶は美花のものだ。どうやら知り合いのようだ。
「ええ、こんにちは」
夏乃さんは興味深そうに俺を凝視して、
「あなたが美花ちゃんの彼氏さん?」
「え……いや、あの」
「近くで見るとなかなかの男前ねぇ」
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