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さすがに口に出すのは不謹慎なので空気を読むが、受験という泥沼から解放された俺はいささかならず退屈である。
溜息を一つ。
このところ、大した用事もないし、やらなければならないこともない。望んでも事件や災害が起こるわけでもなし。
まあ、その分芸術に没頭できるから構わないのだが。
「秀一」
俺が考え事をして帰宅しないのを見つけたか、幼馴染みの美花が声をかけてきた。暇な奴。
「どうした。買い物なら付き合わんぞ」
女の買い物は長くて困る。
「そんなこと言わないで。秀一くらいしか一緒にいく人がいない」
「えー」
「おねがい」
感情表現も声色の起伏も乏しい美花に言われても、心からお願いされている感じがしない。
だが、付き合いは長い。この「おねがい」が本心からのものだというくらいは解る。
「なるべく早く済ませろよ」
俺は溜息混じりに言った。
「ありがとう秀一。愛してる」
……あー。
「そういうのはもっと冗談ぽく言ってくれないか」
美花は俺を見上げて、
「大丈夫。冗談じゃないから」
爆弾を投げつけやがった。
ちくしょう。いっそ本気にしてやろうかまったく。
「じゃあ、出発進行」
「あいよ」
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