ファースト・パート

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 さすがに口に出すのは不謹慎なので空気を読むが、受験という泥沼から解放された俺はいささかならず退屈である。  溜息を一つ。  このところ、大した用事もないし、やらなければならないこともない。望んでも事件や災害が起こるわけでもなし。  まあ、その分芸術に没頭できるから構わないのだが。 「秀一」  俺が考え事をして帰宅しないのを見つけたか、幼馴染みの美花が声をかけてきた。暇な奴。 「どうした。買い物なら付き合わんぞ」  女の買い物は長くて困る。 「そんなこと言わないで。秀一くらいしか一緒にいく人がいない」 「えー」 「おねがい」  感情表現も声色の起伏も乏しい美花に言われても、心からお願いされている感じがしない。  だが、付き合いは長い。この「おねがい」が本心からのものだというくらいは解る。 「なるべく早く済ませろよ」  俺は溜息混じりに言った。 「ありがとう秀一。愛してる」  ……あー。 「そういうのはもっと冗談ぽく言ってくれないか」  美花は俺を見上げて、 「大丈夫。冗談じゃないから」  爆弾を投げつけやがった。  ちくしょう。いっそ本気にしてやろうかまったく。 「じゃあ、出発進行」 「あいよ」
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