―渡瀬 翔―

3/3
前へ
/17ページ
次へ
 電車で十数駅乗り継ぎ、そこから数十分程歩いた辺りに、藤川宅は存在する。  敷地は割と広く、純和風の巨大な屋敷とそして趣のある庭園。  古はこの辺りを統治していた地主の一族。いわゆる名家である。  そんな巨大な屋敷の巨大な門の前に、翔は所在無さ気に佇んでいた。 「さて」  翔は深呼吸を一つ。呼吸を整える。  この豪奢な建造物に気後れしたわけではない。むしろその真逆。  目の前の完璧なセキュリティハウスを、どうやって攻略しようかを考えているのだ。  顎に押さえ、思案する。  数秒の沈黙後、 「決定。やはり正面突破だ」  考えるまでも無かった。それの他に手段が無いことなどは言をまたない。 「っしゃあ!」  翔はすぐ手の届く場所にあるインターフォンを押した。  待つこと十数秒、 「はい」  女性の声が聞こえた。おそらく家政婦さんだ。  幸いこのインターフォンにカメラは搭載されてなく、映像は届いていない。 「郵便局の者でーす」  翔は事もなげに言った。この手の悪戯には慣れている。  少々お待ちください、という家政婦の返事を聞き、門が開かれるのをクラウチングスタートの体勢で待った。 「さあ来い、愚鈍なる者よ」  家政婦の事だろうか。  門の向こう側から足音が聞こえる。  そして門が開かれた。  その瞬間。  翔は風になった。  家政婦の脇をくぐりぬけ、藤川邸の内部へと駆け込んでいく。  兼ねてより準備しておいたモデルガンを片手に、一直線に通明の部屋を目指す。 「覚悟しな、通明!」  しかし、庭園を疾走する翔の前に立ち塞がったのは、通明直属の家政婦部隊だった。ちなみに皆若い。  翔はそのままその怪しげな集団に突っ込む。 「邪魔をするな! 通明の犬共が!」  その手の中のデザートイーグルが咆哮した。  家政婦達はマグナム弾という名のBB弾をよく分からない板の様な物で弾き、次いで長い棒、モップにしか見えない猟奇的な凶器を握って襲いかかって来た。 「フン、まあいい。標的は通明唯一人! 雑魚に用はねぇ!」  格好良い台詞を決めた翔だったが、家政婦の一撃によって、その場に昏倒した。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加