撃攘

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召集をかけられた工廠職員達はそれぞれの担当場所で作業にかかっている。 工廠内に並ぶ、部品倉庫は片っ端から扉を開けられ、予備部品の在庫状況の再確認が行われ、チェックリストが作成されていく。不足が予想される部品は、本土の工場へ発注が実施される。 帰還して来た艦が全て真珠湾で完全修理されるとは限らず、西海岸の工廠へ回航になるかもしれない。1日でも早く艦を戦列復帰させるために必要な作業だった。 病院ではベットの不足が懸念されることから、一部の宿舎を臨時病棟に改造。さらに野戦病院の設営、病院船の手配など、負傷者達を受け入れる態勢を整える。 各飛行場では、明朝にも艦隊へ航空支援を実施すべく機体の整備、実弾の装備が行われる。 ドックでは現在、定期検査や修理などで入渠している艦を追い出し、損傷した艦を優先で入渠させるため、作業が急ピッチで進められていく。 各作業を助けるため、ライトが明々と照らされ、真珠湾は不夜城さながらとなっていた。 その不夜城を探し求め、接近する物体があった。 レーダーにその姿は写っていたが、夜間偵察へ飛び立つ飛行艇が急遽増えたため、レーダー員はそれと判別をつけることができなかった。 虫? もちろん違う。 光に釣られて集まってくる虫と呼ぶには、それはあまりに巨大であり、禍禍しいものだった。 周囲を圧する羽音は、これから多数の人間を恐怖へと導かんと、猛ていた。 それは這うように低空を、飛翔する。 ただ真珠湾を目指し。
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