撃攘

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攻撃終了後、兵員室で休んでいた吉岡は思い立ち、 飛行甲板へ足を運んだ。 艦隊は、帰還のため進んで来た針路を辿っている。 海風が心地よく、吉岡は体を伸ばした。 「……疲れたか?」 いつの間に現れたのか、高島が後ろに立っていた。 「いえ、そんな事は……」 「素直に言えよ。俺も疲れた。 まぁなんだ、初陣しちゃ上出来だった。よく頑張ったよ貴様は」 あわてて敬礼する吉岡に、笑いながら高島は、ねぎらいをかけた。 「……しかし空母を攻撃することはできませんでしたね」 「なに、戦争はまだ続く。貴様が敵空母を叩く機会ぐらいすぐに来るさ。 それにまぁなんだ、他の連中も貴様がこれで一人前の艦爆乗りになったって喜んでどったぞ」 「本当ですか!?」 「さあ?どうだろうな」 ニヤリと笑う高島に、吉岡は苦笑を浮かべた。 そんな折り、上空を直衛の零戦の編隊が轟音を残して飛び去った。 そのまま海上に目をやる。 僚艦(日向)がいないことに、一抹の寂しさがあったものの、前方には《赤城》と《加賀》の巨体が見える。 後方には小振りな《蒼龍》と《飛龍》が、その後方には吉岡と同じく、初陣を立派に飾った新鋭(翔鶴)と《瑞鶴》。 いずれも海に航跡を描き、頼もしく進む。 そして各艦の艦首に光るは菊花紋章。 翻るは軍艦旗。 16条の旭光が真っ直ぐに伸び、燦然と輝く、旭日の旗。 硝煙が染み付き、黒ずんでいたものの、はためく姿はいつもより美しく、頼もしく見えた。
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