撃攘

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海軍長官アーネスト・キング大将から報告書を受け取ったルーズベルトは、書面を見つめたまま、沈黙を続けている。 居心地は悪い。 いっその事、烈火の如く怒鳴ってくれた方がまだマシな、沈黙。 一瞬、大統領がキングが思うほど激昂していないのではないかという錯覚が起きる。 しかし、それは希望的推測に過ぎないと、思い直す。 これだけの大敗を喫して、怒りを感じないはずなど……。 「……今日はエイプリル・フールだったかな?」 時間にして約3分。   ようやくルーズベルトは口を開いた。 「だが、4月だというのに寒いな。それに私はつい先日、コートとマフラーを準備させた所なのだが……」 「申し訳ありません。大統領閣下」 キングは深く頭を下げた。 「報告書の記載内容は全て現実のものです。 太平洋艦隊は、甚大な被害を被りました」 「説明してもらおうか? 海軍長官」 眼鏡の奥に見える碧眼が鋭い光を発した。
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