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すると神崎は苦笑しながら答えた。
「やはり上谷さんは聡明な方だ。私こそ先ほどは取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
神崎は軽く頭を下げた後、続けて述べた。
「その通りです、当ホテルではお客様がお望みになられた場合は、肝も一緒にお出ししております」
フグの肝と言えば、一番毒の多い部分だと私は記憶している。法律だか条例かは定かではないが、肝を出すのは禁止されているはずである。
私は顔にこそ出しはしなかったが、この神崎と言う男に少し不信感を覚えた。
しかし先生はそうは思わなかった様だ。友好を示すかのように、にこやかに神崎へと話かける。
「やはりそうでしたか。いや、常連さんなどには、内緒で肝を出す店もある事はそう珍しくないと存じております。もちろん、神崎さんのホテルも相応の処理をされて、安全にお出ししているという事でしょう」
それは知らなかった。そんな処理があるとは少し信じられなかったが、先生が言うのだからおそらくは本当の事なのだろう。
「はい、当ホテルでは一流の料理人を雇っております。もちろんフグの調理師免許も持っておりますし、肝も十分に毒抜きをしてお出ししているのですが……」
「警察がそれを知れば、どうしても過失致死の方向で処理をされてしまうという事ですね」
「その通りです、事実私が絶対にその様な事は無いと反論致しましても、警察は聞き入れてくれません」
神崎の真に迫った表情は、嘘とは思えない。こう見えても人を見る眼は普通の人間より上だと自負している。私の不信感はすぐさま消え去ってしまった。
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