ー木蓮の木の下でー

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「えっ…木蓮?」 こんな真冬に? 桜の狂い咲きなら聞いた事があるけど… 「真央、木蓮が咲いてるよ」 「ほんと?」 「うん…雪と同じ真っ白な花」 「見たい」 「うん」 きっとこれは 頑張った真央に 神様のくれた最後の プレゼント そして… 俺達が最後に見る 景色 真央を抱き上げ 木蓮を目指す 雪が真央の顔に降る コートの中に真央を入れ、ひたすら歩く 「木蓮の…匂いがする」 「うん」 真っ白な世界 その中で木蓮は凛とした姿で花を咲かせていた 木の下に座り 真央を抱きしめたまま 花を見つめる まるで花が雪を降らせているようだ 「真央と初めて話をしたのは木蓮の木の下だったね」 「うん」 「俺達は木蓮に縁があるね」 「うん」 夏の日に真央と出会い 冬の日にこの世界と別れを告げる 早かったな… 「ハンバーグ…」 「ん?」 「ハンバーグ…美味しかったね」 「そうだね」 初めて行ったファミレスで食べたハンバーグ 二人なら何でも美味しいんだよ 二人なら何を見ても綺麗 二人なら何をしても楽しい 二人なら… 「蓮……泣いてるの?」 「ばぁか!泣いてないよ」 「泣き虫だな…」 「どっちがだよ」 笑いながら真央を見る 雪が激しく降り出してきた だけど 不思議と寒くはなかった
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