壱・散る桜

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声も温もりも匂いも、しっかり記憶に焼きついているというのに……。 「大王さま」 采女の一人がやって来た。 「入鹿(イルカ)さまがお見えです。お通ししてよろしいでしょうか?」 大王の顔がパッと輝く。 まるで、恋人が来るのをずっと待っていた少女のようである。 「おお、そうか。すぐにここへ参るように伝えなさい」 蘇我大郎入鹿(ソガノタロウノイルカ)、またの名を鞍作(クラツクリ)。 大臣(おおおみ)・蘇我蝦夷(ソガノエミシ)の嫡男であり、まだ三十代後半という若さながら、その指導力・行動力は父以上とも言われている。
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