壱・散る桜

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大王のからかいに、引き合いに出された額田をはじめ、周りの采女たちが一斉にくすくすと笑う。 からかわれた入鹿は、バツの悪そうな表情で頭を掻いた。 「ははっ、相変わらず大王さまは痛いところをお突きになる」 額田もこの男のことが好きだった。 もっとも、恋とかそういった類(たぐい)のものではなく、父と年齢の近い彼に父の面影を重ねているのであろう。 むしろ、大王と入鹿が楽しそうに会話をしているのを見ているほうが、額田としても幸せな気分になれた。 「入鹿よ。そちと蝦夷が甘樫丘(あまかしのおか)に屋形を建ててから、もう半年が経つのだのう……」 昨年十一月、蝦夷・入鹿親子は、飛鳥の地が一望できる甘樫丘の上に自分たちの屋形を建設した。
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