壱・散る桜

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そこからは、当然ながら大王の住むこの板蓋宮も丸見えの状態だ。 「心無い者は、“大王家を見下ろして、自分たちがこの国一番の権力者だと誇示(こじ)しているのだ”と吹聴(ふいちょう)しているようですがね」 さして気にした様子も見せず、おどけたように入鹿は言う。 逆に、その振る舞いが額田には痛かった。 大王も同じ気持ちなのだろう。 「そうではないことは、吾が一番よく分かっておる。万一、不信な輩(やから)がこの宮を襲おうとしていたとしても、丘の上からなら怪しい動きもすぐに察知することができる。吾に危険が及ぶのを未然に防ぐ為に、あの場に屋形を建てたのであろう?」 大王の問いかけには答えず、入鹿は静かに微笑んだ。 それが答えらしい。    
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