壱・散る桜

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先帝との間に生まれた葛城皇子(カツラギノミコ)・間人皇女(ハシヒトノヒメミコ)には何度か会っていたが、自分の複雑な身分を考慮してか、漢は公の場にはあまり姿を現すことがなかったのだ。 大王に匂い袋を渡すため、采女が額田の前を通り過ぎたその時。 ――この匂いは――! ほんの一瞬であったが、それは確かに覚えのあるもの……忘れられない匂いだった。 昨夜の恐怖の記憶が、額田の脳裏に呼び起こされる。 采女から匂い袋を受け取った大王は、溜息混じりに大きく頷いた。 「確かにこれは漢のものじゃ。吾があの子に作ってあげたのだから、間違いない。まったく、しようのない子だこと……」
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