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ある春の夜。
大王(おおきみ)・宝皇女(タカラノヒメミコ)に仕えている額田王(ヌカタノオオキミ)は、その夜なかなか寝付くことができずに、寝室を抜け出して回廊へと向かった。
鏡山(かがみやま)の麓(ふもと)で神祇官(じんぎかん)を司(つかさど)る父の薦めにより、二つ上の姉・鏡王女(カガミノオオキミ)と共に遠いこの飛鳥の地にやって来てニ週間。
十五歳の多感な少女は、まだ都の華やかさに慣れ親しむことができなかった。
大王さまはお優しい。
私の巫女としての能力も買ってくださっているし、私だって大王さまのご期待に添えるのは本望だわ。
……でも。
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