壱・散る桜

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鏡山でのびのびと育てられた額田には、華やかな顔の裏にある欲望と陰謀の数々を受け止めるだけの度量はまだなく、また、その特異な能力によって他の人より直接的に物事を感じ取ってしまうため、他人事(ひとごと)ながら傷つくことも多かった。 ……鏡山に帰りたい……。 目の前には、しずしずと花びらを散らす遅咲きの桜。 ゆっくりと階段を下り、木の下まで歩みを進める。 髪に、肩に、雪の如く降り積もる淡い桃色の花びらは、美しく、そして儚い。 その様子が、額田にはまるでこの虚構の都で夢破れ命を落とした者たちのように感じられ、思わず涙が零れ落ちる。 ――その時だった。    
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