壱・散る桜

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「何を泣いているのだ?」 背後から突然、男の声が聞こえた。 この屋形に住むのは額田と乳母(めのと)と数人の侍女だけで、男はいないはず。 「何者です!?――」 恐怖に駆られながらも、勇気を出して後ろを振り返った額田であったが、その目に映るのは日頃見慣れた景色のみ。 怪しい人影などどこにもない。 今、確かに……。 「どこを見ておられる」 驚いて再度、顔を前に向けた額田の視界には、月光を背にした男の姿が。 嘘……っ、先程までは誰もいなかっ……!
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