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もしかしてこれは物の怪(もののけ)か?
あまりの恐ろしさに、その場から逃げ出そうと身を翻(ひるがえ)した瞬時、男の腕が額田の右手首を捉え、即座に彼女を抱きすくめた。
等間隔に刻む心臓の音と肌の温もりは、どうやら生身の人間のようだ。
しかし、当の額田にはそれを実感する余裕などなかった。
助けを求めなくては……。
気持ちは焦るのに声が出ない。
誰か、誰か来て……!!
そんな額田の心中を知ってか知らずか、男は弄(もてあそ)ぶかのように唇を彼女の耳元まで這(は)わせ、囁いた。
「桜散る月夜に女人(にょにん)の涙とは、いいものを見せてもらった。感謝いたしますぞ」
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