壱・散る桜

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ただ桜の花びらだけが、何事もなかったかのように彼女に舞い降りていた……。 飛鳥板蓋宮(あすかのいたぶきのみや)。 お付きの采女(うねめ)に円翳(えんえい)でゆっくりと風を送られて、大王は気持ちのよさそうな表情をしている。 傍(かたわ)らには額田の姿。 彼女は昨晩のことをずっと考えていた。 昨日のあの男は、一体何者だったのか……? 逆光であったとはいえ、確かに姿を見たはずなのに、まるで靄(もや)がかかったかのようにその顔を思い出すことができない。
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