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ただ桜の花びらだけが、何事もなかったかのように彼女に舞い降りていた……。
飛鳥板蓋宮(あすかのいたぶきのみや)。
お付きの采女(うねめ)に円翳(えんえい)でゆっくりと風を送られて、大王は気持ちのよさそうな表情をしている。
傍(かたわ)らには額田の姿。
彼女は昨晩のことをずっと考えていた。
昨日のあの男は、一体何者だったのか……?
逆光であったとはいえ、確かに姿を見たはずなのに、まるで靄(もや)がかかったかのようにその顔を思い出すことができない。
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