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「ふ~~んふふ~ん」
鼻歌を歌いながら鍋をおたまでかき混ぜている妹の後ろ姿。
毎朝見かけるいつもの光景だ。
「おはよう、やちる。今日もうまそうな匂いだな」
「あっ! おはよう、お兄ちゃん!」
やちるはいつもと変わらない肩を覆えるぐらいの茶色い髪を振り、いつもと同じ笑顔を見せる。
この家には俺とやちる以外はいない。
もちろん両親がいないわけじゃない。
いや、いない事には変わりないだろう。
俺は居間にある長方形の木製のテーブルから椅子を1つ引っ張り出して腰かけた。
やちるのリズミカルな包丁の音を聞きながら少し昔の事に意識を飛ばしてみようか。
俺たちの母親はやちるを産んでからすぐに死んでしまった。
俺も子供ながらに泣いた記憶がある。
それから、俺とやちるは父親と3人で暮らしていたが、4年後、父親は再婚した。
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