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金曜日──
約束の時間より少し早目に奈美は待ち合わせ場所に立っていた。
何度も小さな鏡を取り出しては前髪や口紅などをチェックする。
あれから今日まで竹田とは何度もメールをして、昨日の夜は電話で話もした。
お陰で随分と親密度も増したと思う。
相変わらず竹田は冗談とも本気ともつかないような…口説き文句のような…そんなメールを時々挟んで来るのだった。
そんな中で《何か》を…期待している自分に気付かない筈もなかった。
人混みの向こうからこちらへ向かって来る竹田の姿を見つけると、その期待する《何か》がますます大きくなって行くのがわかる。
「待たせちゃったみたいだね。」
「そんな事ないよ。10分位前に来たばっかりだから。」
バーベキューの日以来、初めて会うお互いの印象は良い意味で違って見えた。
あの日はラフな格好だったし、今日は仕事の帰りだからだろうか。
もちろん、奈美は普段より少しお洒落をして来ていた。
「やっぱりこうして会うと印象違うね。この前はラフな格好だったし。」
竹田はチケットカウンターの前まで来るともう一度振り返って奈美を見た。
「そう?どう違って見える?」
「うーん…この前のは…あれはあれで可愛かったけどね。」
可愛かったと言う言葉にドキッとした。
「でもこうして改めて会ってみると…。」
そう言うと竹田はチケットを受け取りながらニコッと奈美に微笑みかけた。
「やっぱ可愛いよ。」
もはや心が踊るのも、期待がどんどん大きくなるのも、奈美には止める事など出来なくなってしまった。
──というより、止める意思があるはずもなかった。
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