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一瞬、奈美には何があったのか理解できなかった。
頭を抱えて目を閉じていたのだから当然だろう。
だが一部始終を見ていた周りの皆は騒然となった。
火傷をしたであろう竹田の手に水をかける者、ドラッグストアに薬を買いに車を走らせる者、結果的にあちこち撒き散らされた備長炭を消して歩く者…。
その中で奈美にいち早く走り寄って来たのは、奈美の彼氏である高橋翔だった。
翔は奈美の両肩を掴むと顔を覗き込んだ。
「大丈夫か奈美?どこも怪我してないか?」
「うん、私は大丈夫。それより…竹田くんが…火傷しちゃった。」
奈美は竹田の方を振り返る。
「大丈夫。瀬川が今から病院まで車に乗せて行くって言ってた。」
瀬川は翔の幼なじみで、順番により今回のバーベキューでは車を出す係の内の1人になっていた為、買ったばかりの新車を傷付けてしまわないかヒヤヒヤしながら皆を乗せて河原までやって来たのだった。
だが怪我人が出たとなれば緊急事態なのだから新車がどうこう言ってられない…と何やら向こうで話しているのが聞こえる。
奈美は助けてもらったお礼をしようと竹田の方へ近づいたのだが、瀬川が竹田を急かして連れて行くと車へ押し込んでしまった。
そして竹田と何の言葉も交わさないまま、瀬川の車は病院へ向けて走り去って行った…。
奈美の中で印象が薄かった筈の竹田勇二は、この時を境に奈美の心に強烈に刻まれる事となった。
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