166人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの人の従者ですから、それに長い付き合いですから」
藍はそう言って、再び窓の景色に目線を戻した……雪子も椅子に座ったまま夕日を眺めた。
その頃、葬送屋は自室のソファーに座り、正面のテーブルに置いた黒い箱を見ていた。
テーブルには、一冊のアルバムがあり、その中にはアリスが写っているやつが何枚かあった。
「確かに私には理解不能な事だ……君との溝を埋める事は、叶わないままだったしね」
赤紫色の瞳を僅かに伏せながら彼は、目の前にある黒い箱に向かって静かな声で語る。
「アリスも人間だ……いつか必ず死期が巡る。私と違って」
葬送屋は黒い箱に手を伸ばして、それに触れた。
結局、彼女の死を見てしまった……だが、自分は数多の人間の最後を見送ってきた。
彼女もその中の1人に過ぎない……しかし、何故か今までに無かった感覚が自分の中にあるのを葬送屋は感じた。
彼は怪訝な表情を浮かべる。自分の中にあるその感情が何か分からないのか、数分間、黙っていたが、それを理解したのか口を開いた。
「今まで数えきれない人間を見送ったが、今回の様な複雑な気分は初めてだな」
そう言うと葬送屋は、黒い箱からそっと手を離し、その箱を眺める。
「お休み、アリス」
そう言った彼の瞳は、慈しむように黒い箱を見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!