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「旦那らしいですね……素直じゃないというか」
しかし、そう語る葬送屋の表情は、楽しそうに見えた。
長い付き合いの藍でさえ余り見ない表情だった。
彼なりに雪子と居たのはいい事だったのかもしれないと藍は思った。
「いい子でしたからね。オレはもう会えないのが残念ですけど……あ!旦那、次は何処に行くんでしたっけ?」
藍が尋ねると葬送屋は、赤紫色の目を細めて笑う。
「イギリスにアリスを送り届けないといけないからね」
彼はそう言うと、傍らに置かれた黒い箱を撫でた。
「旦那、彼女の事なんですが……どう思ってました?」
答えてくれるか分からないが、藍は思いきって尋ねた。
すると、意外にも彼は語ってくれたのだ。
「アリスは、気に入っていたさ。あの時に、彼女は私を憎む事で生きる選択肢を選んだ……結果としては苦しませてしまったが、自ら命を絶つ真似だけはしないでくれたのが救いだよ」
葬送屋は、目を伏せて静かな声で語る……その様子を藍は、黙って聞いていた。
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