序幕

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後処理を終え、青年は、薄暗い広い屋敷の廊下をランプの灯りで照らしながら、ゆっくりと歩いていた。 「私は数えきれない人間の最期を見送ってきた。あの老人もそのうちの1人に過ぎない。だが、彼は〝死〟を受け入れた」 誰に向かうでもなく、青年は、独り言を呟いた。 世間や家族と縁を切り、この様な山奥で1人暮らす老人とたまたま会った青年は、気まぐれで老人と最期まで供に暮らしていた。 老人も話し相手が欲しかったのか、青年を無下には扱わなかった。 〝死ぬとはどういう事なのか分からないし考えた事がない〟 そう青年が話すと、老人は人生の幕引きと答えた。波乱な人生に幕を引いた老人は、この奇妙な青年に看取られながら逝った…。 この青年は、いつだってそうしてきたのだ、〝時期〟の近い人間を見送るのを生業としてきた。 「私に安住の地など必要は無いのだが、折角の好意だ。当分の仮住まいとしよう…」 そう言うと、青年は、薄暗い廊下の奥へと消えた。
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