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気付けば血の海。
匂えば血の臭い。
唇を舐めてみれば仄かな鉄の味。
とりあえずこんなところから一秒でも早く離れたい零は、道を邪魔する死体を踏みつけながら緩やかな傾斜を下りていく。
段々と晴れていく、帝国を隠す霧。
微かな風に乗って、火薬の臭いと耳障りな怒号が聞こえてきた。
もしかしたらあの怒号の中に"あいつ"がいるかもしれない。
雲霞の情報を鵜呑みしたわけではないが、"いる"と思った方が、闘いに対する集中力が増してくる。
零は刃に付着した血を、剣を振って落とすと、地面を思いっきり蹴り上げて斜面を一気に下り始めた。
その勢いで外壁によじ登り、戦場の下界を見下ろす。
統一性の無い武装服と、鎧を身に纏った騎士。
確か帝国騎士団といったか?
その名の通り、帝国を護るために選ばれた精鋭の騎士達の組織だが、それで零の"復讐劇"が阻まれることはない。
零はそれを証明するために、直角の外壁を走り降りた。
靴の裏に黄色いオーラのようなものを纏わせて壁に吸着させているので、降下中に壁から足が離れることはない。
直角だろうと何だろうと、"巫力"があれば降りられる。
だがこれは"降りる"場合の話だ。
"昇る"場合では、いくら吸着力を上げても自重で落ちてしまう。
さっきのように崖からの加速力でよじ登るなら何とか巫力だけでどうにかなる。
用は、頭の使いようだ。
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