夢覚める青年と落とされた火蓋

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ついさっきまで大雨が降っていたのが今は霧雨となっていた。 そんな中小さい丘から霧に霞む帝国を見下ろす男――五月雨 零。 零の表情は、戦への決意とどこか悲しみがあるような悲哀の混ざったものだった。 首のペンダントを手でいじっている。 雨が零の顔を濡らし、まるで涙を流しているかのようだった。 「姉さん・・・・もうすぐ終わるよ」 しばらくの沈黙の後、後ろに人の気配を感じた。 慣れきったその気配の方に振り向く。 青白い痩せこけた顔。 目には常に殺意が満ち溢れ、犯罪の色に染まっていた。 長い藍色の髪は雨でぐっしょり濡れていた。 「雲霞(ウンカ)・・・・本当にあの帝国に"あの男"がいるんだな?」 雲霞と呼ばれた男はニヤリと薄気味悪く笑い、答えた。 「ええ・・・・事前に送り込んだスパイがそれらしき人物を見たと報告があった・・・・」 零はそれを聞くと再び帝国の方に向き直った。 それを見て雲霞は邪魔だと悟り、薄気味悪い笑みを浮かべたまま来た道を戻っていた。 しばしの後。 「待ってろ・・・・」 零は小さくそう呟いた。
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