1-A

2/19
前へ
/243ページ
次へ
表情を読み取りにくくするような分厚い眼鏡をかけ、白衣を身に纏う男が呟いた。 そしてその男の目の前には真っ白なベッドがあり、少女が安らかな表情で眠っている。 ――それはとても異様な光景だった。 二人しかいないその部屋は機械や鉄片、他にも様々な器具…と、専門知識のない素人が触るには危険そうなもので散らかっており、当然人が眠るには到底適しない場所だ。 更には怪しげな男とまだあどけない少女という組み合わせ。 …にも関わらず少女には目を覚ましたり、寝心地悪そうにする、といった様子は一切見られない。 そしてその少女もまた風変わりで、首には猫の鈴を付けたチョーカー、頭には髪色と同じ紫味のある灰色の猫の耳と尾を持っていた。 ――それは人工のものには到底見えない。 とても滑稽だ。 「さて、後は電源かな」 再び男は呟き…少女の左耳の裏に軽く触れた。 きぃぃぃぃん…… 甲高い機械音。 「――さぁ、起きるんだ。 もう動けるだろう?」 ――ぴくっ 少女は男の言葉に答えるように、耳を動かした。 …猫の耳を。 「…ん………」 少女は目をうっすらとだけ開け、眠そうに唸った。
/243ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1510人が本棚に入れています
本棚に追加