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夏も終わりに近づいたとは言え、まだ蒸し暑いこの時期。決して快適とは言えない温度の中、昌浩と物の怪は並んで歩いていた。
「まったく…いい加減涼しくなってもらいたいもんだぜ。こう蒸し暑いと堪ったもんじゃない」
げんなりした様子が声を聞くだけで伝わってくる。それに苦笑した昌浩は短くそうだねと返した。
冬ならともかく、この時期この気温で暑苦しい毛皮を纏った物の怪を見ていると、やる気とかそういった類のものが空気中に無為に放出されていく気がする。
心持ち物の怪と距離をとった昌浩は、背後に隠形しているもう一人の神将の気配をそっと探った。相変わらず一定の距離を保ちながら随従する六合。寡黙な彼は、基本的に昌浩と物の怪のくだらない言い合いや雑談に口を挟んでくることはない。今もまた昌浩が気配を探っていることを知っていながら何も言ってこない。
平和だなー。
六合の気配に変化がないことを確認した昌浩は胸中でそう呟いた。
だがそんな時間もつかの間、足元の物の怪と背後の六合が何かを察知し、一瞬間後には二人ともその場から離れた。
「…ぇ」
まさか、と事態を把握した昌浩だが時すでに遅し。頭上から数えきれない程の雑鬼たちが、ある単語を叫びながら降ってきた。ちなみにある単語とはこれ。
「孫ーーーーーーーーーーー!」
昌浩にとっての禁句である。
昌浩はこれが何より嫌いな呼び方で、雑鬼たちに潰されて姿が見えなくなった今も、山の中から孫言うなー!と叫んでいた。もっとも潰された状態ではいくら凄んでもまったく効果はないのだが。
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