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「………」
熱々のカレーうどんに視線を戻す。ルーに浮かぶ具材達、チラチラと覗く純白の麺。俺には悪魔少女が妖艶な笑みで俺を誘っている様に見えた。今すぐ貪りつきたい。
「………脱ぐか……?」
それは余りに苦しい考えだった。それに、直前の思考と相まって大変な事をしようとしているように思えた。いや、まさかうどんなんて犯さねぇよ、ありえねぇ。
俺の口から皮肉めいた笑いが漏れる。この大衆の面前で上半身裸にはなれない。無理だ。
「もうダメだ、このまま食べよう……」
誰かに慰めてもらいたくて、独り言が漏れる。相変わらず隣の二人は笑顔だった。
うどんを箸に絡めとったその時。
チャイムが鳴った。
正式には予鈴。つまり昼の休み時間が残り五分である事を知らせる鐘である。
生徒達が続々と食堂を出ていく。
そんな中俺は、
「チェックメイトォォォアア!!」
俺のどこかで緊張の糸が切れた。もう完全に手詰まりである。
シャツの汚れなど、うどんの熱さなど無視してカレーうどんを貪った。やべぇ、ウマイ!!
取り合えずは喰い終わった。異常に美味かった。
うちの学校はチャイムが特殊で、一分前に、オルゴールの校歌が流れる。その校歌が鳴り終えると授業開始の合図が響く。今はそのオルゴールが鳴りはじめた所だった。
食堂の洗い場に食器を返すと、長机の上のシャツを取って全力で走りだす。オバチャン数名が何か喋っていたがそれどころではない。
そういえば、と気付くと二人はいつの間にかいなくなっていた。食べるのに夢中で気付かなかったぜ。
走りだしたものの、体力的、精神的、ひいては物理的にこの時間で教室にたどり着くのは不可能だ。だが、とりあえず走った。
そして、チャイムが鳴り終えた頃に教室に飛び込んだ。
全員の視線が注がれる。
「おい、黒伊代、どうしたその体」
教卓に立つ教師の問い掛けに荒く息を吐きながら疑問符付きの無言を返した。
よく見ると数名が俺を見てクスクスと笑っていた。何が可笑しいのかと自分の体を見ると、
カレーまみれだった。
一言教師に遅れた事を謝り、席に座った。
皆の視線は未だ俺に注がれる。
これは、あれだ、カレーうどんの悪魔少女とオタノシミだったのだよ。という冗談も言えないほどに気まずかった。いや、ただでもこの冗談はマズイな。
ああ、ダメだ。死にたい。
今日は最悪の一日更新となった。
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