第一鬱「死闘の末に」

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風きり音と共に小皿が飛翔。どうやらサルが投擲攻撃を行ったらしい。もちろん俺に当たるわけもない、左手で受けとめてみせた。 「弟よ、今のは油断した。だが、貴様の攻撃など手を使わずとも対処できるわ、かかってこい」 と、灰色の大きな円盤がサルの手にかけられた、「ガスコンロ」の上の大鍋、「ドナベ」の蓋だ。 「当たらなければどうということはない」 顔面への精確な投擲を首の捻りだけで回避する。 さて、皆さんは「蛇足」という言葉をご存知だろうか。無駄なもの、とかそういうのが意味であるが、元になった中国のエピソードでは、とある使用人たちの間の酒を賭けた「地面に蛇描いて一番に出来た人酒飲めるぞゲーム」で一番にできた者が「俺はこの蛇に足まで描けるぞ」といって調子に乗った結果、最終的に酒を飲み損ねたというお話だ。  心の油断や余裕から無駄な物を生み出してしまうって話だな。 バァン!! と炸裂音にも似た音を立てて、俺の避けた「ドナベ」の蓋が顔の横で砕けた。俺の避けたそのすぐ後ろには壁があった。ナイフの様に鋭い破片が俺に襲い掛かる。 受けとめればよかった。 結局俺は両腕に全治数日の小さな傷を無数に負うことになった。 「蛇足」とはまことにいい教訓である。だが、まぁその教訓を生かさない愚か者もいたわけだが。 「止めろよ馬鹿」 弟の冷たい一言が突き刺さる。 「馬鹿に言われる筋合いはねぇ」 今日もいいことは何一つ無かった…。
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