第三鬱「本能の趣くままに」

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この金を使うべきか、それとも……。生唾を飲み込んだ音がまた空腹感を全身に広げた。クソぉ…。 「………」 とはいえ考える時間は無かった。 少し先に座る発育のよろしい胸を見ていると、その持ち主に不穏な視線を投げ掛けられた。テメェの胸には性的興味などこれっぽっちもネェよ。俺はヒンヌー教信者だ。 ったく、最近の年頃の女の子というものは何かにつけて男を性欲の塊として認識もとい意識するらしい。興味があるのはよろしいがね。まぁ、結局は向こうも満たされていないわけだ。可愛そうに。 無駄な思考はさっさと捨てて、席をたった。さほど忙しそうでも無くなった厨房へと声を掛ける。 「あいよっ!」 威勢のいいオバチャンにカレーとうどんを注文した。 「カレーうどんね、はいはい、ちょっと待ってなよ」 あれ、何か、情報の伝達がうまくいっていないみたいだ。 「あ、あの…」 俺が自信なく小さな声で話し掛けると。 「なに!?まだ何か注文!?」 と大急ぎでうどんを湯がくオバチャンの怒号とも呼べる声が響く。「……何でもないです」 だんまりと視線を落とした。と、気付いた。この人はきっと俺にカレーうどんを食わせたいのだ、そうに決まっている。何故なら、ある程度客も減った食堂である。釜を見るとご飯はもうとっくに無くなっていた。無いなら無いって言ってくれ…。 そんな無理矢理なオバチャンに二九○円を渡し、出来上がったカレーうどんを持って席まで戻った。 二人はもう食べ終わっていた。さも満足そうに座っている。いいなぁ、金持ちは。  カレーうどんの代償は中々のものだった。まぁ仕方ないと言えば仕方ない。この食欲を満たせないなら後は彼女の貞操を汚すしか無いのだ。そんな事できない。断じて。 また雑念が湧いたのを掻き消してカレーうどんに手を掛けた。が、すぐに箸が止まった。シャツは白い、カレーが跳ねると困る。 そう思ってシャツを脱いだ俺はすぐに絶望した。下のシャツも白い。 前面に黒のプリントがあるといえ、白の面積があまりに広かった。これではうどんが喰えない! 「………」 どうする…? いつの間にか、俺の額をじっとりと濡らす汗は初夏の汗から脂汗へと変わっていた。 隣に視線を投げかけるも、二人はさも面白そうに笑顔の花を咲かせていた。事情が掴めているらしい。言い様のない怒りが込み上げてきた。
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