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蝉がうるさい。
太陽はイジメかっていうくらいギラギラしてるし、溶けてしまいそうだ。
先程から食べているアイスもすでに手の上に滴り落ちている。
「あ~暑い…」
アイスを食べ終え、私はベッドにダイブした。
ギシッ。
ベッドが軋み、私は汗ばんだ体をタオルケットにくるむ。
クーラーのスイッチを入れて
私はそのまま深い眠りへと落ちていってしまった。
私の名前は相澤遊里(あいざわゆうり)。
4月に高校3年生になった。
今は始まったばかりの夏休みで、暑くてでかけるのも嫌な気分。
お父さんは結構大きな建設会社の副社長でお母さんは料理教室の先生をしている。
兄弟は兄が一人。
篤史(あつし)って名前。
去年有名大学を卒業してなんと自分でIT企業を起ちあげた。
優しくて頭がよくてイケメンで、自慢の兄だ。
家族の仲はびっくりするくらい良くて。
どんなに忙しくても毎日みんなで夕飯を食べる。
そんな時私はいつも思うんだ。
『ああ、幸せだなぁ』
って。
あんまりにも幸せだから怖いくらい。
ただ一つ幸せじゃないのが…。
産まれて17年、私は彼氏ができた事がない。
好きな人とかはいたけど、いつも見てるだけ…。
ちゃんと恋がしてみたい。
それが今の私の夢。
ガタン!!!!!
「…?」
誰もいないはずの一階から物音がして。
私は目を覚ました。
恐る恐る階段を降りると何やら声が聞こえてくる。
「お願いです結城社長!!それだけは…ッ!!」
お父さん…?
それは確かにお父さんの声だった。
叫ぶような、すがりつくようなそんな声。
誰に向かって話してるの?
気になった私はドアの隙間からリビングを覗く。
そこには泣いて土下座をする父と、後ろ姿しか見えないけど若そうな背の高い男性。
そして、父の会社の加賀谷社長がいた。
「相澤君わかってくれ。会社と社員を守る為にはこれしかないんだ。」
加賀谷社長はお父さんの肩を掴み苦しそうに言う。
でもお父さんは激しく首を振り頭をあげる事はない。
―会社を守るとか…どういう話しなんだろ…。
私が不安になっていると。
今度は若い男性が口を開いた。
「強情な人だ。大人しく差し出せば、あなたの会社も社員も、そしてあなたの地位も守られるというのに。」
低く響くその声に、私は恐怖を覚えてしまった。
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