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「なのにね、結城さん。うちの娘は…そんな貴方を愛してると言うんだ。愛していると言って…泣くんですよ。」
また旦那様の目が見開かれ。
動揺したように揺れる。
しかしその目は私を向く事はなかった。
「…」
旦那様は無言で下を向いてしまう。
「…貴方にとって遊里は本当に玩具ですか?愛していなかった?」
お父さんの話し方はまるで子供をあやすようだった。
優しくて、暖かい。
でも旦那様は顔を上げようとはしない。
…愛しているはず、ない。
だって旦那様は、私を玩具だと言ったんだから。
私を抱いたその手で、他の人を抱いたんだから。
「…私はね、本当の事が聞きたいんだ。遊里のために。そして…」
言いながらお父さんの手が私に伸びてきて。
私のお腹に優しく触れた。
「…遊里のお腹の中にいる、貴方の子のためにね。」
「お父さん!!!」
私はまさか妊娠の事を言ってしまうとは想わなくて、ソファーから立ち上がってしまう。
その行為が、お父さんの言った事を真実だと確信させてしまう事だと気づいて、慌てて旦那様を見た。
「!」
旦那様と目が合ってしまい。
私は胸が跳ね上がるのを感じ目をそらす事ができない。
今まで目も合わなかったのに…。
「…本当…なのか?」
大きく見開かれた旦那様の目は潤んでいるようにも見え、私をまっすぐに見つめている。
私は静かに頷くとソファーにゆっくり座り直した。
旦那様はまた俯いてしまい。
沈黙が部屋を包む。
部屋に置かれたアンティークの時計が時を刻む音だけが虚しく響いていた。
「…私がいると話せないだろう?ゆっくり、話し合いなさい。」
お父さんが沈黙を破り立ち上がる。
私は咄嗟にお父さんの腕を掴んでいた。
―――二人きりにしないで。
目で訴えたが、手はそっと剥がされ、お父さんは部屋を出て行ってしまった。
「…」
相変わらず旦那様は何も話さない。
…玩具が妊娠して帰って来た。
きっと対応に困っているんだ…。
私は勝手に傷つき、緩みそうな涙腺を気合いで閉じた。
そして口を開く。
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