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「…責任を取って欲しいなんて言いません。でも、産みます。…安心して下さい。一人で育てていきますから。ご迷惑はおかけしません。」
私が話す間も旦那様はピクリとも動かない。
俯いたまま、話しを聞いているかさえ分からなかった。
私はそっと立ち上がる。
軽く頭を下げ、ドアへと歩き出した。
ガシッ!
その時。
手首を掴まれた感触がして私は立ち止まる。
え…?
旦那様…?
ゆっくり振り返ると、旦那様が無表情のまま私の腕を掴んでいた。
「…座りなさい。」
低い声で言われて私は恐る恐るまたソファーに戻る。
旦那様はゆっくりため息を吐き、おでこに両手で作った拳を押し付け俯いていた。
…なんだか、祈っているみたく。
「…なぜ憎んでいる男の子供を産みたいなどと?」
「最初は憎んでいました。でも今は…先程言ったみたく、旦那様の事を…」
「じゃあ何故出て行った!!!」
急に怒鳴られて私の肩がビクつく。
旦那様は相変わらず態勢を変えず私の目を見ない。
「…あなたを愛する事が…許される事ではないと思いました。借金がある限り私は借金のカタでしかない。それに旦那様はあの日…私以外の女性と…。私が気持ちを伝える事は、旦那様を失う事だと、思ったんです。」
絞り出すように。
言葉を選んで話す。
「……借金など…あんなものお前を手に入れる口実に過ぎなかった!!…7億くらい…お前を手に入れる為なら…くれてやっても良い金だった!」
旦那様が少し興奮気味に話す。
私は驚いて目を丸くした。
「それにあの女は…お前を借金のカタにと買ったのをどこからか嗅ぎつけて脅しをかけてきた週刊誌の記者だ。…抱いてなどいない!…指でしてやって…その写真を取り口封じをした。ただそれだけだ!」
「ホント…ですか?」
私は今にも泣きそうな気持ちを抑えて、聞く。
「…私は…お前以外には勃ちもしないよ。」
鼻で笑うように言う旦那様は少し泣きそうな声をしていた。
私は耐えきれず涙を流す。
旦那様の言う全てが、まるで私を愛しているように聞こえて。
「…じゃあ私、旦那様を愛していても良いんですか?愛してると言っても…許されますか?」
「…バカやろう…私は、心の全てでお前を抱いていたのに…何故気づかないんだっ!」
俯いていて見えないが、旦那様は泣いているように感じた。
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