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「不器用すぎですよ…」
泣きながら良い、私は俯いたままの旦那様を抱きしめた。
「でも、いつから私を?」
「…お前が4才の時だな。」
一瞬私の息が止まる。
旦那様の肩が震え、笑いをこらえているようだった。
「覚えてなくて当然だな。…13年前、家を追い出された私は、株で稼いだ金だけを持って街をフラフラしていた。もう誰も、信じられない。…そう、思っていた。」
旦那様は話しながら私の腕をぎゅっと握る。
私はまだ顔を上げてくれない旦那様を抱きしめたまま耳を傾けた。
「何日目かな…毎日昼を公園で過ごしてた私の所に、一人の可愛い女の子が寄ってきた。無垢な笑顔で私に話しかけてきて…素っ気ない私に毎日毎日。毎日絶対来るからね!なんて、勝手に約束してって…でも二週間くらい経って、いつも来る時間にその子は来なかった。」
「え?」
「…また裏切られた。なんて、勝手にやさぐれてた私の元に、二時間遅れで来たその子は…フラフラだった。熱が39℃もあって、親になかなか出してもらえなかったから抜け出してきたって。なんでそこまで…そう言った私にその子は言ったんだよ。」
「「だって、約束したから。」」
旦那様と私の声が重なり、旦那様がやっと顔を上げる。
その瞳には涙がたくさんたまっていた。
「今、思い出しました。…あの男の子、旦那様だったんですね?」
私が泣きながら笑うと、旦那様の目から一滴涙がこぼれ落ちた。
「ああ…あの時、情けなくも泣いてしまった私を…お前は抱きしめてくれた。あの温もりがあったから私は…ここまで頑張ってこれたんだ。」
旦那様の涙は止まる事なく頬を濡らす。
「でも、治って一週間後に行ったら旦那様はいなかった。」
「…熱を出してまで来るなんて、私はお前にとって悪影響だと思ったんだよ。でも、この13年間…あの時の女の子は私の支えだった。」
「旦那様…」
私は再度旦那様を抱きしめて旦那様の髪を撫でた。
「そして、お前が16才になった頃、お前を探し出した。でもお前が覚えている保証はなかったし…父親の会社の経済状況が良くない事を知って…チャンスだと思ったんだ。」「それで…」
私は全てに納得した。
旦那様が私だけは信じられると言った事。
借金のカタにこんな小娘を買った事。
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