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すると私の手を離し、旦那様が椅子を降りた。
「…確かに、私のした事は取り返しのつかない最低の事です。本当に…申し訳ありませんでした。」
床に手をつき。
おでこを床につけて。
その旦那様の姿に涙が溢れた。
「やめ…やめてください…旦那様っ…」
私は必死に旦那様の体を起こそうとするのに、その体は動かない。
どうしたら良いか分からない私は思わずお母さんを見つめた。
「お母さんっ…私、お母さんやお兄ちゃんを騙したような形になって、本当にごめんなさいって思う。…でも、私辛くないの。今、私幸せなの。旦那様と居る事が…旦那様の子がお腹の中に宿った事が…涙が出るくらい…幸せなのっ!」
お母さんは傷ついた顔をしてからゆっくり目を伏せた。
わかってる。
はいそうですか、って受け止められる事じゃない。
でも、受け止めて欲しい。
私と、旦那様と、この子のために―――。
「…本当に、勝手なんだから…」
お母さんの声が震え、涙を流しながら私を見る。
私がまっすぐに見つめ返すと、お母さんは視線を旦那様に移した。
「…遊里を傷つけたら、許さないわ。…世界一、宇宙一幸せにしないと…あなたのした事は許さないんだからっ!」
言うと、お母さんは泣き崩れてしまう。
それをお兄ちゃんが支え。
真剣な瞳で旦那様を見ながら言う。
「俺も、同じ意見です。遊里は俺の大事な妹ですから…」
旦那様はゆっくりと顔を上げて。
その瞳は涙をいっぱい溜めていた。
「お母さん…お兄ちゃんっ…」
私は涙でそれ以上話せなかった。
旦那様はそんな私を抱きしめて自分も涙を流す。
「約束します。必ず、家族全員で幸せになります。…本当に、ありがとうございます!」
二人で一生懸命頭を下げた。
お母さんとお兄ちゃんは呆れたように笑い、お父さんは微笑みながらそれを見ていた。
認めてもらえた。
それが嬉しくて、何度も何度も「ありがとう」を言うのだった。
「遊里、おいで。」
旦那様が帰って、寝ようとした時。
お母さんが私を寝室に呼んだ。
ベッドには既にお父さんが横になっていて、ニコニコと微笑んでいる。
「一緒に寝ましょう?…お嫁にいっちゃう前に、ね?」
お母さんが優しく笑うので、私は満面の笑みで頷いた。
二人に挟まれて横になる。
「ちょっと狭いね。」
クスクス笑い、身を寄せ合った。
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