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◇
『こんな所に人間が何の用?』
尋ねた声にも、その人間は虚ろな反応しか見せない。
ただ声をかけてきた私の方を一瞥しただけで、また此処ではない何処かを見つめるような、遠い顔をする。
『…まるで世界の終わりでも見てきたような顔ねえ』
それでもやはり何の反応も見せない。そんな様子を見ている内に、段々と腹が立ってきた。
『ああもう、せっかく話しかけてるっていうのにその辛気くさい顔やめてくれない!?見てて苛々する!』
言うが早いか、私はすぐさま楽器を喚び出す。
初めからこうすれば良かったのだ。ぐだぐだと話をしたりするより、私の演奏さえ聴けば人間の心なんていくらでも高揚させられるのだから。
一曲、二曲と終わるに従って、初めは胡乱気に私を見ていたその人間も、少しずつ表情が変わるのが目に見えた。
そうして即興で行った私のソロコンサートが終わり、どうだ、と言わんばかりに私が笑いかけてやると──
──ありがとう。
ただそう一言呟いて、初めて私に笑顔をくれた。
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