第1章 “出逢い”

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 第1章 “出逢い”

 第1章 “出逢い”  夕闇の中を、少女は走っていた。  白い長袖のワンピースに、腰まで垂れ下がった黒い髪。  紅い唇に白い肌。  大きな黒い瞳をギラギラ輝かせながら、少女はうれしそうに走っている。  「ようやくお父様がお帰りになるのですわね!」  少女の父は、2年前から外国で会社を経営している。  古物商の経営者だ。  宝石や古物を取り扱っている。  お金持ちのお嬢様として、大事に育てられた彼女は、親にとって自慢の娘でもある。  「サヤ様!お待ちください!」  少女の後ろから、メイドが息を切らしながら追いかけてくる。  「セフィリア!早く!」 と、少女は手招きする。  「ハァ…。ハァ…。サヤ様…、走るのは良いことですが、少し早すぎます…。」 と、セフィリアと呼ばれたメイドは汗を手の甲で拭いながら言った。  「ごめんなさい。セフィリア。でも許して。お父様が帰ってこられるのよ。」 と、サヤはその場をクルリと一回転して見せた。  「サヤ様。明日ですよ。」 と、セフィリアはようやく落ち着いたようで、静かに言った。  「そうよ。知っているわ。でも、お父様は二年振りに帰ってこられるのよ。」 と、瞳を閉じて祈るかのように両手をあわせて、笑みを浮かべる。  そんなサヤを見てセフィリアは、少しだけ許す気持ちになった。  目を閉じている少女の顔は、まだあどけないからだ。  風が吹く。  風と共に桜の花びらが舞い踊り、サヤの頭の上に、何枚か落ちていく。  薄く淡いピンク色の花びらに、セフィリアは、目をほころばせた。  初めてセフィリアがサヤに出会ったのは、サヤがまだ幼かったときだ。  黒い髪を二つに分けて結んで、紅いリボンを付けるのが、あの頃サヤのお気に入りのヘアスタイルだった。  今は、結ばずに垂らしている。  「セフィリア!」 と、サヤが呼ぶ。  サヤを見ると、嬉しそうにまた走っていた。  セフィリアは少し困った顔をしたが、サヤを追いかけていく。
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