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白い壁に覆われた宮殿のような屋敷に、サヤとセフィリアは入っていく。
ここが、サヤが生まれて育った自分の家なのだ。
町外れにある丘の上を、平らにして大きな屋敷を、20年前に父が建てた。
サヤは、この屋敷で育ち、町の人たちにも愛された。
「お帰りなさいませ。」
と、セフィリアが玄関のドアを開け、サヤが中に入っていくと、何人ものメイド達が声を揃えて腰を曲げて出迎えていた。
「ただいま。アンリ、ジャック。お母様はまだ帰らなくて?」
と、サヤは廊下を歩きながら前を歩く若い男と女のメイドに聞いた。
「はい。たぶん夜中に帰られるかと。」
と、男の方が答える。
「そう。セフィリア。温かいスープが欲しいわ。」
と、サヤは後ろに振り向いた。
セフィリアは、一つ首を縦に動かすと、その場を離れ、くるりと後ろに振り向き、歩いていった。
「暖かくなってきたわね。」
と、サヤは呟く。
「はい。そうですわね。サヤ様。」
と、女のメイドが答えた。
「ねえ。アンリ。お父様が帰ってこられたら、みんなでお花見をしに行きましょう。」
と、サヤはアンリの前に飛び出る。
「はい。いたしましょう。」
と、アンリは笑顔で答えた。
アンリの人好きのするコケティッシュな笑顔が、サヤは大好きだ。
アンリは、サヤと同じ歳だ。
サヤが町中で、パンを売る仕事していたアンリを一目見た瞬間に、サヤはアンリが気に入った。
アンリの軽やかな足取り、上品な振る舞いに、セフィリアも太鼓判を押すほどのアンリの仕事ぶりに、サヤはアンリを自分のメイドとして置くようになった。
部屋の扉の前に着く。
サヤは、扉の取っ手を掴み、扉を開ける。
サヤのほっそりとした体が、部屋の中に滑るように入っていく。
サヤは、着ていた春用のコートを脱ぐと、アンリに手渡した。
アンリは、コートをハンガーに掛け、クローゼットにしまう。
「サヤ様。わたくしは、これで失礼いたします。」
と、アンリは頭を下げて部屋を出ていった。
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