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彼は呑気にそう答えた。
「だから、なんでよ?」
「だって、バイクに乗るのに、ノーヘルはないだろ?それとも、そっちの方がいいのか?」
バイクね。
先にそれを言いなさいよっ。
「…わかった。被る。」
フルフェイスを被る。
嫌な匂いはしない。
「苦しくないか?」
彼は、メットのカバーを上げながら聞いた。
「大丈夫。」
「行くぞ?」
私の鞄を持ちながら、優しく聞いてくれた。
私は返事の代わりに頷いた。
彼の単車は普通だった。
町でよく見かける感じのやつで、ビヨーンと前が長いわけでもなく、物凄く速そうでもなかった。
多分、名前があるんだろうけど…私にはわからない。
「しっかり捕まっとけよ~。」
バイクが一度、轟音を響かせた後、彼がそう言った。
私は言葉通り、彼にしがみついた。
バイクは、さっきの轟音とは違い、静かに走り出した。
初めてバイクに乗った私は、その景色に見とれてしまう。
今、見えたかと思うとすぐに過ぎ去る。
その風景は、いつも自転車か電車の私には、体験できないものだった。
ちょっと怖かったけど…。
「着いたぞ。」
私の感動は、時間にして、十数分であっけなく幕を閉じた。
また乗せて貰おうっと。
「…ありがと♪」
「どういたしまして。」
彼は人差し指を口元に立て、ニカッと笑った。
「うん♪」
「じゃ、また明日な。」
彼がまたバイクに跨り、帰ろうとした時に、私は彼を咄嗟に掴んでしまった。
そして、
頬にそっとキスをした。
何してんの――ッ!?
私は真っ赤になっているのが、自分でもわかるくらい顔が熱かった。
が、
「おっ、サービスか?なかなかやるなっ!!それなら、近い内に新しい彼氏できるぞっ!!んなら、また明日ぁ~。」
彼は普段と変わらない笑顔で走り去った。
私って、そんなに魅力なし?
しばらく、私は動けなかった。
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