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「ここだけは月の光がそのまま入ってくるんだ………」
その場所は直接月の光が入ってくる場所で、まるでそう―――別世界を錯覚させる場所だったんだ。
まぁ、それだけ森が暗いってだけなんだけど。
「父さん。僕がやってる事は、本当に正しい事なのかな………」
僕が幼い頃に命を落とした父。
そんな父が僕に残した言葉と言うのが―――『良いか秦羅。俺はいつか必ず人間と竜が手を取り合って生きている世界を作るからな。ちゃんと誇れよ』―――という言葉だった。
それを僕は何度も聞かされてきたのでそれだけを父の言葉として記憶している。
ただ、僕は父が間違っているとは思えないんだ。
同じ生きているものなのだから分かり合えると思っているんだ。
とはいえ、僕自身はまだ竜を討伐する現場を遠くから見ていたり家臣や分家の人達と協力して戦ったことしかないから直接竜とコミュニケーションを取ったことはない。
だからこそ、これから僕が変えていかなきゃと思っているんだ。
だけど、そんな事を考えている内に―――僕は、運命を動かす出来事に遭遇してしまうことになってしまった。
突如として僕の左側の草むらが音を立てて揺れたかと思うとそこから一人の僕より少しだけ小さいくらいの女の子が出てきたんだ。
その娘の特徴は月の光に照らされてとても綺麗に煌めく翠色のセミロングの髪。
そして何より、彼女の左の二の腕に包帯を巻き、破れたところからキラリと光るものがあるという事だった。
「君は誰?そんなに怪我してるけど……。もしかして、竜なの?」
「……ひっ!?あ、あぁ……。いや、殺さないでください……!!助けてください………」
やっぱり思った通りだった。
全身傷だらけの少女は今僕等が追っている竜だったんだ。
可哀想に思えた僕は、彼女に歩み寄って彼女の体を優しく抱きしめた。
「痛いよね……。恐いよね……。僕が君の事を助けてあげる。じっとしてて、すぐに終わらせるから」
そして僕は彼女目掛けて剣を振り降ろした―――。
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