―Ⅲ―

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彼女の死因――薬物の過剰摂取に因る中毒死。 表向きは病死という事になっているが。 警察では、売人の行方を追っていると言う。 それらしい男が、彼女と何度か接触している事が、確認されているらしい。 しかし、その行方は杳として知れず、捜査は行き詰まりを見せている。 彼女は幼い頃から夢見ていた。 愛する人との幸福な家庭を。 ただそれだけだった。 しかし、現実の結婚生活は破綻に終わった。いや、始まる前に終わってしまったのだ。 彼女はその理由を知る事が無いまま、無為に刻を過ごしていたのだった。 そして今、彼女は幼い頃に夢見た生活を送っている。 哀しく美しい、閉ざされた夢。 そこでは彼女は愛され、幸福な結婚を送っていた。 色とりどりに咲き乱れる花々を擁する花壇。 緑を讃える芝生。 それらを窓から眺める、小さいながらも瀟洒な家。 窓辺の椅子に座り、毎日愛する人の帰りを待つ自分。 愛する人は、玄関を抜けると真っ直ぐ自分の元に駆け寄り、愛の抱擁と口づけをする。 しかし、その夢から覚める時、彼女は辛い現実を目の当たりにする。 そこには、孤独な闇に身を置く自分が居る。 誰も彼女を救ってはくれない。 それでも一度は、現実を生きようと考えたのだ。 しかし、そこに待っていると思っていた希望は無残にも打ち砕かれ、彼女は更なる絶望の淵へと追いやられていくのだった。 そしてまた、彼女はそこから逃げる為に、夢の世界へと足を踏み入れていった――。
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