―Ⅲ―

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ある日、その夢に神父が現れた。 彼女はその姿に、疎まし気な視線を送る。 既に、彼女は神を手放していた。あれほどまで敬っていたにも関わらず、彼女のささやかな願いすら聞く事の無い神は、救いを求めるに値しないと思ったのだ。 その思いは、幻惑の世界に居ても変わる事は無かった。 その神父は、彼女に群がり、堕落した快楽へと誘う者達を排除していった。 そして、彼女に問い掛ける。 彼女は神父の勝手な行動に腹を立てたが、その声に懐かしさを覚え、もう一度神父の姿に視線を送った。 外見よりも若さのある瞳。 その瞳は、悲しみと慈しみで溢れている。 その温かい瞳を彼女は知っていた。 古い親友。 人生には夢と希望が詰まっていると思っていた頃に得た、幼友達。 最後に彼の姿を見た時、その姿は内なる病に侵され、破裂寸前だった。 完治するまで彼の元に留まる事が出来ず、唯一の気掛かりになっていた。 それがこんな形で再会しようとは……。 健康な身体となった彼を見て、感動すると共に、彼女は皮肉も感じていた。 彼を認識し、現実の世界に戻ってきた意識には、自分の状況を理解する事が出来ていたからだ。 彼は、彼女をこの状況から救いに来たのだろうか? そこに、彼がまた同じ問いを口にする。 彼女はそれに答えようとするが、一瞬明瞭だった思考は混濁を覚え始める。 身体が震え、強い渇きを覚えた。 彼女の体内に巣喰う魔物が、餌を欲しているのだ。 それを鎮める為に、彼女は彼に縋り付く。 懇願し、暴れ、苦しむ。 その姿を目の当たりにし、彼は狼狽した。 彼女を抱きしめ、己の無力さに涙を流す。 彼女の内なる魔物は、舌なめずりをしながら、彼の次なる行動を待っていた――。
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