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あの日も、僕はいつものように彼女と一緒に帰っていた。
無邪気に、嬉しそうに笑う彼女。
僕はその顔を、その表情を、絶望の色に染めたかった。
「でね、そのあと──…」
はしゃぐ君が愛しくて
この手で、壊してみたくて
「ねぇ、明日何処か行かない?」
徐に切り出してみた。
僕の言葉に、彼女は顔を輝かせた。
壊したい
僕の心に、またもその感情が表れる。
「いいよ!何処にする?」
彼女は僕に向かって、嬉しそうに微笑みながらそう話す。
僕はそんな彼女を、優しく抱き締めた。
でも彼女は照れたのか、僕の腕を抜けようとした。
僕は逃がさないとばかりに力を込めて、そのまま提案してみた。
「公園なんてどうよ?弁当持ってさ」
「いいね!私腕振るっちゃうんだから!」
「楽しみにしてるよ」
抱き締めたまま、彼女にわからないように微笑する。
今すぐにでも壊したい、というこの感情を抑えながら。
その後は何もなかったように、いつものように会話をし、彼女を家まで送り届けていった。
そのあとの帰途で、僕は金物屋に寄った。
「有難う御座いました」
店員の威勢の良い声に見送られて店を出る。
そして僕は家に帰ってすぐ、購入したそれを再び手にとった。
妖しげに、銀色に輝くそれを軽くなぞってみると、簡単に皮膚を破って、赤くて赤い液体を床に落として染みを作った。
僕が購入したのは、小さくて鋭利で、それでいて綺麗で、まだ何色にも染まっていない、銀色のナイフ。
それに映った僕の顔は虚ろだった。
明日にはこれが
綺麗な赤に 染まって
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