彼岸花

2/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
    手に握られた、鋭利な銀色。   呆然と立ち尽くしたまま、私は自分の犯した罪を見下ろした。   真っ赤に染まったまま動かない、私の大切な人達。   その人達と同じくらい真っ赤に染まっている自分。   どうしてこんなことをしてしまったのか、どうしてこの方法を選んでしまったのか。   頭の中を疑問ばかりが渦巻いている。   それでも、もう後戻りが出来ないということだけは、はっきりとわかった。   両親、兄弟、友達。   大切な人達が、その身体に真っ赤な花を咲かせて息絶えている。     私が 殺した。     ほんの数時間前までは、一緒に笑っていたのに。   ほんの数時間前までは、一緒に話していたのに。   ほんの数時間前、ほんの、数時間前までは───…。       私は、精神的に追いやられていた。   特に誰のせい、とか、そういうのではなくて、自分で自分を追い詰めすぎて、切羽詰っていた。   勿論、みんな心配してくれた。   心療内科に行って精神安定剤を貰って、毎日毎日、絶望を見ないように必死に自分を繕って、必死に生きてきた。     でも、それがいけなかったんだ。     世話を焼いてくれる両親が鬱陶しくなってしまって。   心配してくれる友人が信じられなくなって。   何もかもが敵に見えて、自分自身しか信じられなくなって。   世界が崩れていく音が、私の耳にははっきりと聞えた。   自分で自分の首を絞め続けた結果、私は自分だけしか認められなくなっていた。   いや、自分すら認められなくなっていたのかもしれない。   何もかもが自分を裏切っているように思えて仕方が無かった。   そうして、押さえていた絶望が再び見え始めていった。    
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!