自我

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…懐かしいな。 愛海は、そのときの様子を鮮明に思い出し、感慨に耽っていた。 すると突然、部屋の隅の方で派手な物音がした。 何かがぶつかったような、音だ。 愛海の個室は全て電気が消されていて、唯一自由に消灯や点灯ができる枕元のライトを手探りで探し、ボタンを押して明りをつけた。 真っ暗ではなくなった室内の隅を、目を凝らしてみてみた。 物音の正体は、笹岡がイスから落ちたことによるものだったのだ。 「リュウ君!いたんだ!」 そう、笹岡が面会にきて喋っていたことは覚えているが、知らぬ間に愛海はこんな時間まで寝てしまっていた。 電気も消えているし、とっくに笹岡が帰ったと思っていたのだった。 「いって~…」 「もう、大丈夫?びっくりしたよぉ」 愛海がベッドから降りようとすると、笹岡が声を荒げて制した。 「愛海は寝てろ。俺は起き上がれるから…いって」 腰をおさえながら、イスを愛海のベッドの側に移動した。 「…赤ちゃん、無事だといいな」 「ね…大丈夫だよ、きっと」 下腹部にあてた愛海の手と、笹岡の手が重なった。 二人でゆったりとした幸せを感じながらも、愛海は一つだけ、気掛かりなことがあった。 ……奈々は、来てくれないのかな…
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