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あたしは今、病室の目の前にいる。
今朝早く家を出て、タクシーに乗ってここ、高原病院までやって来た。
受付で面会をお願いすると、看護婦さんは快く承諾してくれて、愛海の部屋番号を教えてくれた。
エレベーターに乗って、目的の三階に着くと愛海の部屋番号を探した。
【谷村 愛海】と書かれたプレートを見つけると、あたしの両足は……竦んでしまった。
両手に花束を抱えたあたしは、この期に及んでまだ、勇気が出なかった。
花束を抱える両手の力が、ギュッと少し強くなる。
飲み込んでも飲み込んでも溢れてくるような唾を飲み込んで、あたしはドアノブに手を掛けた。
ドアをあけると、愛海は上体を起こして、窓の外をみていた。
いつも念入りに巻いていた栗色の髪はストレートになり、妊娠をあたしたちに告げた日より少しだけ、顔がふっくらしている。
そっとドアを開けたあたしには気付いてないようで、それがあたしの心臓の動きを、更に速くさせた。
「……まなみ」
小さく、呟くようにしか言えなかった。
大きく、元気になんて、とてもじゃないけど……
愛海はゆっくりとこちらに顔を向け、びっくりしたように目を大きく開いた。
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