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愛海はこんなにも、あたしの知らないところまで来てしまっていた。
病室の窓が、ガタガタ鳴った。
外は強風が吹き荒れていて、もうまもなく秋雨がくることを告げていた。
雲は次第に灰色になり、たちまち曇天となった。
しとしと土に降り頻る雨の音が聞こえたのは、曇天が現われてから、そうかからなかった。
それはざあざあと音を立て、窓ガラスを乱暴に叩いた。
草木が揺れだし、まるで人がふらついているようだ。
そして時折、カンッカンッとあたる音が聞こえるようになった。
飛び散った木の枝や、石ころが窓ガラスにぶつかっていた。
愛海は少し手を伸ばし、素早くカーテンをしめて、電気をつけた。
「雨、ひどくなったね」
「たしか今日かあしたに、台風がくるって言ってたよ」
「奈々、大丈夫なの?」
愛海の心配の言葉は、プラスチックの板に跳ね返されたピンポン玉のように、あたしの耳には入ってこなかった。
そのかわり、あるひとつのフレーズが、頭の中を駆け巡る。
必死に、必死に。
それは潮が満ちることもなければ、満を持してといった自信もなかった。
むしろ干潮のように、二人の距離は開いてたというのに。
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