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どうやって来たか、正確には覚えてない。
ただ覚えているのは、ホームに身を投げようとしたら駅員に取り押さえられたことだけだ。
でも、本当に思い出せないんだ。
どうやってここ、白浜に来たかなんて。
果てしなく続く空はかつてないほど真っ黒く、上空にあるのは灰色に汚された雲だけだ。
そしてその雲は爆弾のように、たくさんの涙を投下していく。
爆弾は、目の前で轟音をたてている波によってすぐに消されていく。
だけどその波は、この世の全てを破壊してしまおうとするような原爆より、恐ろしく感じれた。
轟々と音を立てて、白浜のキレイな砂を巻込んでいく。
風はふきつけ、あたしの髪の毛は乱れた。
垂れ流されたままの涙はかたちをかえ、顔の輪郭をなぞって四方八方に飛び散った。
あちらこちらにある旅館やホテルは明りをともし、全て窓がしまっている。
すぐそばにある民家の門灯は点滅を繰り返し、やがて切れた。
へし折れた草木は空に舞い、その内の一本があたしの腕に直撃し、あっという間に大きな傷をつくった。
そこから少しずつ血がにじみ出て、やっぱりあたしの爪の色と、同じ色だ。
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