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ふだんから日焼けしているあたしの茶色い手は、いつの間にか真っ白くなっていた。
部活をサボったりしていたせいなのかな。
巨大な波を目の当たりにしても、あたしの思考は病室にいる時よりは冷静になっていた。
両腕をのばし、少しでも空に近付こうとした。
あの、三人ですごした、夏休みに。
笑いあってふざけあった、この白浜の、真っ青な空に。
近付こうとしたけど、行き先をなくした両腕は宙を舞うばかりで、どうしようもなかった。
そうだ、携帯を出そう。
携帯を取り出せば、あの日に戻れるかも…
しかしポケットに突っ込んだ手は、あまりの冷たさに動きをとめた。
水が、入っている…
「うそだ、うそだ…」
ポケットから携帯を取り出し、ぶるぶる震えている両手で、画面を開いた。
電源ボタンを押しても虚しく、しまいには強く押しすぎて陥没してしまった。
真っ黒な液晶には、あるまじき姿の自分が映っていた。
「うそだあああ」
携帯を掴み、大きく口を開けている波に向かって投げた。
すぐに飲み込まれ、姿は見えなくなった。
携帯ひとつあげても、このデカい生き物はお腹いっぱいにならないらしい。
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