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憎たらしいその波をみて、あたしの涙腺が破裂するんじゃないかと思うぐらい、号泣した。
力が抜け落ち、両足が砂浜に埋もれた。
上体は辛うじて背骨に支えられ、なんとか倒れずにすんだ。
起き上がれ…
起き上がらなきゃ…
両足に力を入れるも、体は全く動かない。
そうしているうちに、なんだか波が近いように見えて来た。
気のせい…?
違う…?
波は確実にこちらに近付いてきて、あと数歩前に出れば、飲み込まれてしまいそうだ。
その現実をみたとき、あたしの体はまた震えた。
怖い。怖い。怖い。
早く抜けでなきゃ
早く、立って、走って逃げなきゃ…
足に力をいれ、立ち上がろうとしたその時。
あたしは、冷たい冷たい波に包まれていた。
苦しい
息ができない
まなみ
まなみ………
ぐるぐるとかたちをかえ、まるで魚のように波の中で踊らされ、あたしは奥へ奥へと飲まれていった。
真っ黒な暗い暗い水が、あたしの瞳を覆う。
冷たさと諦めの中、あたしは一度だけ、波の中で空をみることができた。
空は青く、真夏のように輝いていた。
雲は真っ白く、飛行機雲が空を飛んでいる。
そしてあたしたちは波の中を漂って、沖まで競争している…………
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